セイコーマチックの『セルフデータCal.395』です。デッドストック(NOS)を入手。 セイコーの自動巻腕時計に初めて日付機能を加えた『セルフデータCal.394』をグレードアップしたモデル。石数はCal.394の24石に対して39石。ケースはGOLD CAPと呼ばれる特別に厚い260ミクロン金貼り。またCal.394モデルにはないハック機構(秒針規制装置※)と防水機能を備えています。さらに機械は金メッキされ固体番号も刻印。およそ当時に考えられる高級機能を満載したスペシャルモデルです。 国産腕時計については今一つ疎かったのでこれを機会に色々と勉強してみました。 2001.11 update ※時刻合わせの際に竜頭を2段目まで引き出すと秒針が止まります(ハック機能)。セイコーの自動巻でこの機能を搭載したのはこのCal.395が初めてです。 (追記)この時計はデッドストックで入手しましたが文字盤に経年劣化とは違う妙なにじみが出ていました。時計師kuroさんによると、これは当時セイコーが薬品の調合を間違えたために発生したそうです。「販売当時に無料にて交換してた時期がありました」とのこと。知られざる“裏”時計史ですね。 2003.12 |
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文字盤には独楽(こま)バッジが輝いています。独楽はセイコー(諏訪工場)製自動巻のイメージシンボルでした。「セイコーマチック」の前身は「ジャイロ・マーベル」。独楽の英語名「ジャイロ」と戦後の諏訪工場が最初に世に送ったスタンダード手巻き腕時計「マーベル」を合体させたネーミングです。独楽のマークはここから始まりました。 セイコー初の自動巻腕時計は1955年に亀戸工場から発表されました。しかし非常に高価であったことなどから、すぐに製造が中止されてしまいます(スイスAS社のコピー機械だったことも関係しているかもしれません)。代わって諏訪工場が独自の自動巻機構『マジックレバー方式』※を開発。同方式の機械を搭載した「ジャイロ・マーベル」が1959年にリリースされました。しかしムーブメントが厚くなってしまう欠点があり、これを解消するために手巻き機構を外すことで解決を図ったと言われています。ここに初代「セイコーマチック」が誕生しました。 手巻き機構を省いた『マジックレバー方式』の機械には『62系』と総称されるグループがあります。機械の基本構造は、ほぼ共通。「62系」と呼ばれるのは「初代セイコーマチック」の派生モデルに搭載された機械のCal.ナンバーに“62”が付く(例:6201)からです。ただし初代セイコーマチックCal.603や、ここで紹介しているCal.395など(62の数字に関係ない)3桁のCal.ナンバー機械も存在しました。 その後、マジックレバー方式で、製造方法が簡略化された諏訪製『66系』、同じくマジックレバー方式で亀戸製『76系』が開発されます。マジックレバー方式の各系列機械は同時期に製造が続けられ、それぞれ住み分けをしながら石数など機械グレードごとに相応のモデルへ搭載されていきました。特に『62系』はグランドセイコー初の自動巻に採用されるまでにグレードアップされていきます。 1960年代半ばになり、一層の薄型機械の開発を求められた諏訪工場は『歯車巻き上げ式』※を採用。同方式の機械を積んだ当初の派生機械を『83系』と総称します(83系の例はこちら)。 参考:※「国産腕時計〜セイコー自動巻1」(トンボ出版) |
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裏蓋からは色々な情報が読み取れます。この時代のセイコーによく見られるイルカマークが意味するのは防水機能。イルカマークのみは標準防水(耐圧水深30メートル)、イルカと王冠で高級防水(耐圧水深50メートル)、70メートル防水のものは70PROOFと裏蓋に入るとのことです。 39は石の数。基礎キャリバーのCal.394(24石)に対して15個の石を追加しています。具体的には日車受に9個の石を追加。さらにローター部分のベアリングボールに6個の石(ルビーボール)が使用され、計39個となっています。 周囲の文字はWATER PROOF 70 GOLD CAP 260 MICRONS J13.083。70メートル防水ケースで260ミクロン金貼り。J13.083は何の数字か不明。260ミクロンの金貼りはセイコーのGC処理でも相当な厚さ。ちなみにセイコーの金を使ったケース処理表記には、18K(金無垢)、Gold Cap(金厚板貼り)、Gold Filled(金貼り)、Gold Plate(金メッキ)があります。 裏蓋内側には磨き模様(ペラルージュ模様)が施されています。中央に刻印された「鶴のマーク」。これは「セイコー純正ケース」であることの証明です(トンボ出版『国産腕時計』より)。戦前戦後のセイコーのケースには、ほぼ例外なく「鶴のマーク」が見られます。ただし1960年代の時計になると「鶴のマーク」は一部の時計にしか見られなくなります。ケース製造が下請けに分散されたか、ある程度の高級ケースにのみ刻印されるようになったのか、理由はあるのでしょう。“鶴”が何を意味するかは分かりませんが、1892年の精工舎創業時の技師長であった吉川鶴彦(1864〜1945)の“鶴”の字から採用したのかもしれません。 |
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