“エネルギー自給”のクオーツ時計「キネティック」です。初期の『セイコー・SUSシリーズ』にラインナップされていたモデル。削り出した武骨にも見えるステンレスケースとマッドなつや消し黒文字盤がカッコイイです。IWCのマークシリーズに似ていますね。 「キネティック」を紹介するのはこの時計が初めてですので、ここではその技術や開発の歴史を紹介します。 「キネティック」は当時「AGS」と呼ばれていました。開発当初は「オートクオーツ」と呼ばれていた技術は、日本国内で「AGS/オートマチック・ジェネレーティング・メカニズム」として文字盤などに表記されます。その後、世界(技術)ブランドとして「キネティック」に統一されました。 世界初のシステムは1983年にセイコーエプソン(セイコーとの関係はこちら)が研究、開発をスタート。1986年のバーゼル・フェアに参考出品され、商品化されたのは1988年1月。ドイツで先行発売されます。同年4月からは日本でも発売され、画期的な時計機械は「自動巻き発電・蓄電機構付きクオーツ・ムーブメント」として紹介されました。 「キネティック」の初代機械は7M系、そして5M系がその後継。ここで紹介している『SUS』には5M系の機械が載っています。「キネティック」の最大の過大は蓄電効率でした。具体的には低パワーで動くステップモーターや、蓄電料の大きな小型コンデンサの開発に注力したとのこと。5M系は何とか普段使いに耐えるレベルですが、全くの停止状態から蓄電しようとすると1分くらいは時計を振りローターを回転、蓄電しなければなりません。現行モデルでは機械はさらに改良され蓄電効率も向上。またオートリーレー※などの新技術なども加わり普段の使用にストレスはほとんど感じないレベルになっています。 クオーツ腕時計の製品化については、水晶振動子の小型化を達成することが“製品化”のカギを握ったと言われますが、キネティックの場合も基本技術以外のところで開発の苦労があり、それが“製品化”を左右したと言えそうですね。 回転錘(ローター)はタングステン合金。この回転は歯車を介して100倍に増速され、サマリウムコバルト磁石製のAGローターを毎分1万〜10万回転という超高速で回転させます。結果、発電コイルに電磁誘導作用で交流電圧が発生。ここで得られた微少で不安定な電気エネルギーを整流し、コンデンサーに蓄えそれをエネルギー源に水晶振動子やステップモーターを駆動します。 キネティック発売当時、日照時間の少ないヨーロッパにおいては、同じくエネルギー自給のソーラ発電腕時計より優れた技術と評価されました。ただしソーラ外装発電も発電効率を劇的に向上し、キネティックに比べ小型のクオーツムーブメントは電波時計技術とも融合。マーケットでの販売個数においてはキネティックを引き離しています。エネルギー自給時計においてキネティックの開発に注力したセイコーはソーラー外装発電においてシチズンに大きく遅れをとる結果になりました。 2003.9 update ※ オートリレーとは約72時間静止状態が続くと自動的にパワーセーブ機能が働き、全ての針が止まり、エネルギー消費を最小限に抑えるパワーセーブ機能のこと。 |
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2つのコイルは発電コイルとステップモーター駆動コイル。ローターはタングステン合金です。 |