CYMA TAVANNES VENUS Cal.175

   

  

  

  

 スイスの時計メーカーCYMAのクロノグラフです。大型の金無垢ケースにVENUS社製クロノグラフ機械を搭載。まずはCYMAの歴史から調べてみました。

 CYMAは1862年、Joseph SchwobとTheodre Schwobの兄弟がスタートさせた時計メーカーだと言われています。ただし誰を創業者にするかには諸説があり断定はできません。1891年に中興の祖とも言われるFrederic Henri Sandozが経営に参加。時計産業がさかんなスイス・Le Locle/ル・ロックルにあった時計販売会社「Henri Sandoz & Cie」で働いていた彼は、独立して自ら時計製造会社を設立。会社はTavannesという町に置かれました。このときにSchwob兄弟の会社と統合する形になっています。

 シンプルウォッチからクロノグラフ、リピーター、コンプリケーションモデルまで多種多様な時計を手掛け、1890年頃には様々なパテントを取得するまでに成長。早い段階で時計製造に近代工作機械を持ち込み、当時は40人の従業員が1日に40個以上の時計を製造していました。この頃、会社の名前は明確ではありませんでしたが、CYMA銘の完成品も市場に出回るようになり。これが会社名、統一されたブランド名になっていったようです。CYMAとはフランス語の「CIME」からきており“最高地点”といった意味があるとのこと。

 1892年、これまた時計産業のさかんなスイス・La Chaux-de-Fonds/ラショー・ド・フォンにある同業者の協同組合に加盟。会社の通称名はTavannes-Cymaとなりました。これは「TavannesにあるCyma」という意味と推測。同社製品には「Tavannes-Cyma」「Cyma」「Tavannes」などと記されていきます。そこからさらに業務を急拡大し、特にアジア商圏への進出に積極的に取り組みました。イギリス軍などの公式軍用時計で実績のあった同社は中国軍への売り込みにも成功。中国軍はCYMAの腕時計を正式採用しています。

 世紀は変わり1905年になると1日の生産量は1000個を超えるまでに。1938年には2000人の授業員がオートメーション化された工場で1日に4000個のムーブメントと完成品を製造する規模に成長します。この頃から外部のエボーシュ(時計機械製造の専門会社)より機械供給を受け、CYMAでケースして完成品を作成する手法も取り入れるようになりました。クロノグラフではValjoux/バルジュー社製の機械を数多く採用しています。もはやCYMAは完成品メーカーとして巨大な企業に成長し、1940年頃にはスイス製で最も売れている時計は同社製だったという記録もあるほど。

 1943年には独自設計の自動巻機械(半回転式)Cal.420を発表。この機械をスクエアケースに積み「Watersport」と名付けられた時計は収集家のコレクトアイテムとなっています。さらに1957年には全回転式Cal.485を開発。「Autorotor」と名付けられた同機械はロンジン(Longines Cal.380)にも供給されました。

 しかし、それ以降に同社が独自設計の機械を発表することはなく、エボーシュのETA社製機械を採用していくことになります。この頃、同社は「廉価時計が市場を席巻する」と公言し、時計製造の分業化を推進しました。しかし同社の業績は徐々に悪化、1966年には会社を清算してしまいます。「Cyma」のブランドネームは「Chronos Holding」という資本グループが買取りました。現在は創業資本とは別の会社が「CYMA」ブランドの時計を販売しています。

 今回紹介する時計にはCymaとTavannesが併記されています。このTavannesは製品名ではなく製造地としてのニュアンスでしょう。スイス・GENEVEに本社のある時計メーカーが文字盤に「GENEVE」と入れる具合でしょうか。文字盤外周にはタキ・メーターを配置。

 この腕時計で注目されるのは搭載されるVENUS社製Cal.175です。エボーシュ機械ですが、当時のバルジュー製機械などと比べると生産量も少なく収集家には人気の機械。VENUS Cal.175は過去、ブライトリングが積極的に採用してきました。一方、CYMAが同社製のクロノグラフ機械を採用していたことは今回はじめて確認。前述のように同社のクロノグラフにはValjoux/バルジュー製機械が搭載されることが多かったようです。さらに、特筆すべきは搭載されているVENUS Cal.175の仕上げ。部品には徹底した磨きと面取りが施され、緩急機には高級機に見られるスワンネック状の微動装置まで取り付けられています。高品質なVENUSが搭載されるブライトリングでも、ここまで仕上げられたVENUSが搭載されている固体を見た事がありません。CYMAがVENUSを採用していたという史実と共に“VENUS研究”においても興味深い発見です。 2004.4 update

    

  

  

  

  

  

  

 ホールマークはケースサイドに見られます。 

  

  

   

  

  

  

  

  

  

  

 

VENUS Cal.175 振動数18000 5振動/秒

機械外側にはメタルリングがはめられています。金無垢ケースの強度を上げます。

  

  

  

  

ブレゲヒゲを採用。テンワの腕まで面取りされています。 

  

  

  

VENUS Cal.175

VENUS Cal.150
 同時代のCal.150との比較。違いはムーブメント径で、Cal.175 (3レジスターは178)は直径31ミリの14型(14lignes)。Cal.150は29ミリの13型(13lignes)。クロノグラフランナーと積算計を押さえるブリッジの形状が違いますが、これはCal.150とCal.175の違いではありません。Cal.175にも右の写真のようなブリッジを採用するモデルはあります。ブライトリングをはじめとする高級機向けには、左の機械にあるような末広がりのブリッジを採用することが多かったようです。

  

  

  

  

1940年代のCYMA社広告