LONGINES(歴史)の「Flagship」です。「Flagship」は「Conquest」(例1/2)と並びLONGINES高級ラインのペットネームでした。同社の大型手巻き機械Cal.30LやCal.340系自動巻を搭載する「Flagship」をヴィンテージ・マーケットでよく見かけます。一方、今回紹介する「Flagship」には希少機械Cal.380が搭載されていました。 このCal.380はLONGINESの自社製機械ではありません。スイスの(完成品)時計メーカーCYMA(歴史)から供給されたものです。ここに大きな謎があります。LONGINESは1945年に同社初の自動巻機械Cal.22Aを開発・リリースして以降、70年代初頭までに非常に多くの自動巻機械を世に送り出してきました(一部参考)。そのLONGINESが何故、他社製の自動巻機械を採用したのか。所有の資料によるとLONGINESがCal.380を採用したのは1960年。LONGINES Cal.380のベースはCYMA Cal.480系/Autorotorです。LONGINESがCal.380を採用した1960年前後のLONGINES製自動巻機械を確認すると、1958年にCal.290系がリリース、1962年にはCal.340系がリリースされており、それぞれLONGINES製品へ積極的に搭載されています。 一方、LONGINESに機械を提供した側のCYMAは完成品メーカーの色が濃く、エボーシュ(解説)とは異なります。このCYMA Cal.480系/AutorotorについてもLONGINES以外に供給した事実は確認できません。仮にLONGINESが外部から自動巻機械の供給を迫られた事情があったとしても、CYMAのCal.480系・Autorotorを採用した理由が見つからないのです。明らかなのはこの機械を載せたLONGINES製品は「Flagship」のみということ。さらに現在確認できる固体が絶対的に少ないことから、製造期間が極めて短い期間であったことは間違いありません。 あえてその事情を推察してみます。LONGINESは自社で機械製造を行う歴史ある時計メーカーでしたが、何故か自動巻機械の開発は他メーカーに比べて出遅れました。ROLEXは自動巻機械の初号機を1941年に、OMEGAは1943年にリリースしています。またエボーシュのASなどは初号機を1931にリリース。40年代に入る頃には完成度の高い自動巻機械(バンパー式機械)を大量生産し多くの外部メーカーに供給していました。転じてLONGINESは前述の通り、1945年になって初めて自社製自動巻機械Cal.22Aをリリースしています。1940年初頭にはエボーシュを中心に完成度の高いバンパー式自動巻が多数開発されていましたが、LONGINESは自社製自動巻の初号機を完成させるまで、一切外部から自動巻機械の供給を受けませんでした。しかし40年代中頃から60年代初頭にかけての10数年、自動巻機械はまさに日進月歩の勢いで機械の改良が進みます。自動巻機械の開発に出遅れたLONGINESの初号機Cal.22A系(1945年〜)や第2世代Cal.19A系(1952年〜)は全回転ローターを使用した自動巻機械ではありましたが、同時代の他社製機械に比べると(例/ETA Cal.1256/1950〜)時代遅れの感すら覚える機械(構造)です。CYMA製機械を採用した1960年前後の数年、確かにLONGINESは自社製自動巻機械のリリースを行っていません。メーカー間で自動巻製品の競争が日に日に激しくなる中、ある時点で機能(巻上効率・耐久性・リザーブ等)の高い自動巻機械が早急に求められ、LONGINESは場つなぎ的にCYMA製機械に頼ったのかもしれません。また自社で時計機械の製造を行ってきたマニュファクチュールとしてののプライドから、例え不得意な自動巻機械であっても、ETAやASなどエボーシュが製造する機械の採用には慎重だったものと想像しています。そこで、理由は定かではありませんが完成品メーカーであるCYMAの力を借りた。「Flagship」という高級ラインに採用する機械であったこともその判断に影響したのかもしれません。 それではLONGINES Cal.380/CYMAのCal.480系・Autorotorは優れた自動巻機械だったのでしょうか。所有の資料に機械の性能評価はありませんでしたが、機械を観察すると他に例を見ない独創的な自動巻機械であることが理解できます。ローター裏側中央に偏心カムが取り付けられており、これがローター直下部に設置された2つのレバー先端にあるルビーローラーを交互に動かします。このレバーの動きからゼンマイを巻き上げる構造。ローターが左右いずれの方向に回転してもゼンマイを巻き上げる両方向巻上式。CYMAが自社製品に初めてこの機械を搭載したのは1955年ですが、これをツメ巻上方式の一種と見ると同種の機械の中では非常に完成度が高いように思います。同時期のLONGINES製自動巻機械に見られるぜい弱な巻上げツメと比べると完成度の違いは歴然。ツメ巻上式の傑作機械と言われるIWCのペラトン式やセイコーのマジックレバー方式にも並ぶ隠れたツメ巻上式機械の傑作品と言えるかもしれません(参考/色々な自動巻方式)。 2005.9 update |
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アメリカの業者取引ガイド。膨大な数のヴィンテージウォッチを取り上げ、参考取引相場を紹介しています。小さな電話帳のような体裁。またロレックス、オメガ、IWCなど主要メーカーの歴代機械紹介、エボーシュマーク表、技術解説、主要メーカーのリファレンス表、ホールマーク一覧など使える資料も豊富。移り変わりの早い相場に合わせて毎年新版を出版。この内容で3000円弱の値段は非常にお買得。時計も全てイメージ表示されているので理解も進みます。イーベイなどで舶来時計にビッドする際にも参考になるでしょう。 | ||
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