MINERVA Cal.19

  

  

  

  

  

  

 ミネルバのワンプッシュ・クロノグラフです。ネットオークションを通じてドイツの方から譲って頂きました。その方の説明によると「戦前のミネルバの機械を新しく製作した時計ケースに搭載した」とのこと。つまりカスタム・ウォッチです。しかしそれ以上の詳細な情報は教えて頂けませんでした。文字盤も非常に状態が良いので新たに作られたものかと思いますが、秒針や積算計のインダイヤルにある微少な溝の仕上げや、手作業で塗られたと思われる蛍光塗料など公式ウォッチのような完成度です。また文字盤には「Minerva」のプリントまで見られるのですが商標はどのようになっているのでしょうか。90年代までわずか数名の家族的経営を続けてきたミネルバは小ロットの限定ウォッチも数多くリリースしてきました。その一環でこの時計についてもミネルバ自体が関わったとも考えましたが、そういった記録はありません。

 これと同じ手法でカスタムされたと思われる「Minerva」銘の時計は市場にポツポツ出回っているようです。いずれも文字盤とケース、プッシュボタンはほぼ一緒。販売しているショップや取り上げる時計雑誌の捉え方は様々ですが、私の時計については以前の所有者の説明がありましたのでカスタム品であることはハッキリしています。海外のネットオークションに明るい方はご存じかもしれませんが、これと同じように戦前のクロノグラフ機械を載せたカスタムウォッチ(と思われる)の出品は度々見られます。ほとんどが懐中時計用の機械を搭載。戦前の懐中時計機械のサイズは共通しているものが多いので、特定のサイズに特化してケースを大量発注、文字盤については専門の職人に作らせているのかもしれませんね。他にロンジンやエベラール、レコードなどのカスタムウォッチを見たことがあります。

 さて、この時計は“文字盤にある通り”ミネルバ製のクロノグラフ機械Cal.19-9を搭載していました。元々は懐中時計用のクロノグラフ機械のようです。腕時計の竜頭にあたる部分は懐中時計では12時位置にくるとイメージして下さい。つまり懐中時計では縦目のクロノグラフになります。ただしCal.19-9を搭載したオリジナルのミネルバ製腕時計クロノグラフもあったようです。初期の腕時計クロノグラフはこの時計のように懐中時計から発展したワンプッシュ式が主流でした。

 ボタン外側にある菊の部分を持ち上げ回すことで時間調整。プッシュボタンは押す度に「スタート・ストップ・リセット」のクロノグラフ動作を繰り返します。時計機械のパーツが腕時計用のものよりも大型ですので、クロノグラフの操作感は非常にシッカリした手応えがあります。もちろんケースも大きくパネライをさらにひと回り大きくした感じです。懐中時計用のユニタス6498を載せたエベラールの腕時計「トラベルセトロ」と同じくらいの大きさでしょうか。

 こんな時計を腕にクラシックカーでも運転したいですね。 2003.11 update

    

  

  

  

  

  

  

ボタン外側にある菊の部分を持ち上げながら回すと時間合わせができます。

  

  

  

裏蓋内側にはMinervaの刻印まで見られました。手が込んでいるのか、、、それともMinervaが作成?

  

   

   

Minerva Cal.19-9 18000振動 5振動/秒

  

  

    

 ヒゲはブレゲヒゲです。テンプはバイメタル切りテンプでした。ブレゲヒゲはこちらで、バイメタル切りテンプについてはこちらで説明。

  

  

  

クロノグラフ動作

 あまり馴染みのないワンプッシュ式クロノグラフ。その動作を解説します。※ピラー式のクロノグラフ(ツープッシュ)の基本動作はこちらで解説しています。

スタート

 プッシュボタンを押す度にオペレーティングレバーとその先についたカップリングクラッチがピラーホイールを時計回りに回転させます。写真はクロノグラフ針が動き出した状態。

 (下白★)カップリングクラッチの先端がピラーホイールの谷の部分に落ちます。すると連動して(上白★)トランスミッションホイール(右から2つ目の車)が左上方向にスライドして、ドライビングホイール(一番右の車)の動力をクロノグラフランナー(右から3つ目の車)に伝えます。これでクロノグラフランナー、つまり連動したクロノグラフの秒針が動き出します。

 またクロノグラフランナーと積算計の車であるミニッツレコーディングホイール(一番左の車)をつなぐ中間車(ミニッツレコーディングインターミディエイトホイール/左から2つ目の車)がの動きで連結。赤輪でかっこった箇所を見ると、中間車とクロノグラフランナー内側の突起が噛む位置にあることが分かります。1分間に1回これが噛み合ってミニッツレコーディングホイールを動かし、分積算計を1目盛り動かします。

 リセットハンマーは根元がピラーの山に乗り(★下)、先端のハンマー部分がクロノグラフランナーとミニッツレコーディングホイールの根元にあるハートカムから離れます。

  

  

ストップ

 下★)カップリングクラッチの先端がピラーホイールの山の部分に乗ります。すると連動して(上★)トランスミッションホイール(右から2つ目の車)が右下方向にスライドして、ドライビングホイール(一番右の車)の動力はクロノグラフランナー(右から3つ目の車)に伝わらなくなります。

 下●のクラッチも山に乗ります。この動きで中間車は下方向に移動。中間車とクロノグラフランナー内側の突起は噛む位置から離れます(赤輪)。

  

  

リセット

 リセットハンマーの根元がピラーの谷に落ち(★下)、先端のハンマー部分がクロノグラフランナーとミニッツレコーディングホイールの根元にあるハートカムを叩き、クロノグラフ針、分積算計がそれぞれ帰零する位置まで車が戻ります(リセットされます)。

  

  

  

  

  

 今回紹介したミネルバと似ている時計はマーケットにポツポツ出回っています。個別のオリジナル性は不明。(参考写真)

  

  

  

 「ジャッケ・エトアール」のオーナーであるヤコブ氏もこんなカスタムを作っています。それにしてもMinerva銘の文字盤はどのように手配したのでしょう。(参考写真)。