PIERCE Cal.861

  

  

  

  

  

  

  

 Pierceの自動巻です。1940年代の極初期に開発された自社製自動巻キャリバーを搭載。非常に変わった機械ですので以下で詳細に解説しています。まずはPierceという時計メーカーについて調べてみました。

 Pierceは1883年スイスのビエンヌ(Biel/Bienne)でLeon Levyと彼の兄弟によって設立されました。正式名称は「Manufactures des Montres & Chronographes Pierce S.A.」。また同時期にスイス・ムティエ(Moutier)にも工場を構えます。社名の通りクロノグラフを中心に、当初より比較的廉価な時計をリリースしてきました。

 当時はクロノグラフ・ウォッチは一般的ではありませんでしたので、Pierceが製造するクロノグラフは非常によく売れ、同社はほどなく1500人もの従業員を雇うほどの大企業に成長しました。

 20世紀初頭、スイスの時計産業は過剰生産とメーカー間の価格競争によって恐慌状態に陥ります。1930年代には時計機械専業メーカーの倒産などから、完成品メーカーへの時計機械供給もままならなくなり、Pierceは自社キャリバーの開発を決断しました。それよりPierceは独創的な時計機械を次々と開発していきます。

 特殊な機械構造を持ち1933年にパテントを取得したクロノグラフや、2つのボリュームを持つ機械式アラームウォッチ、テンプの緩急を外部から調整できる時計などアイデアにあふれれた製品を次々に発表。現在ではそれぞれヴィンテージ時計ファンのコレクトアイテムとなっています。ここで紹介する自動巻時計に搭載される時計機械も、他に例を見ない特殊な構造を持っています。「roller automatic」と呼ばれる同機は1940年に開発され、1954年まで製造が続けられました。

 

 上品なラウンドケースとスモールセコンドがクラシカルな雰囲気です。 1940年代の腕時計ですがケースは比較的大きく、ラグ幅は20ミリ。やはり自動巻機械を収めるためにケースが大型化されたのかもしれません。時刻表示のアラビア数字も独特なデザイン。可動モジュールが上下運動を行う機械構造のため、時計を振ると「トントントン」と音が響きます。バンパー式の時計とはまた違った柔らかい音でした。 2002.12 udate

    

  

  

  

  

  

  

  

  

  

  

  

  

  

  

  

  

  

A

B

A-2

B-2

 AとBの状態を繰り返します。赤で囲った部分が上下に可動。白で囲った部分はケースに固定された部分です。左側にある縦棒(白)は固定ユニットに、右側の縦棒(赤)は可動ユニットに付属。左側の固定された縦棒に可動ユニットがささっているような具合で、これが上下に動きます。この際に可動ユニットに付属したツメが固定ユニットにある車を巻き上げる仕組み(下写真参照)。

 機械中央上にある板バネは先端が裏蓋に当たり、機械をケースに固定する役割。ゼンマイは手巻での巻き上げも可能。

 円形ケースに納められた自動巻機械としてはBUREN初期の自動巻機械と双璧の変形機械です。

  

  

 ローターの回転運動ではなく可動ユニットの上下運動をゼンマイ巻き上げに活用します。ツメ巻上げ方式は初期のローター自動巻にもよく見られました。ツメ巻き上げ方式は、IWCのペラトン式セイコーのマジックレバーなどが有名です。