CITIZEN COSMOTRON SPECIAL

  

  

  

  

  

  

  

  

 シチズンの電磁テンプ式腕時計「コスモトロン・スペシャル」です。以前こちらで紹介した時計のケース違い。電磁テンプ式製品は1950年代の終わりにハミルトンが製品化に成功して以降、多くの時計メーカーが開発・製造を行いましたが()10振動メカはこの「コスモトロン・スペシャル」だけでした。シチズンが展開した電磁テンプシリーズ「X8」「COSMOTRON」の最終モデルで、搭載されたCal.7800/Cal.7803には微動緩急装置や時報合わせ装置が付加され(スペシャルCal.7806には付加せず)機械も金メッキされるなどシチズン渾身の電磁テンプ製品となっています。

 発売が開始された1972年は、セイコーが(1969年に初号機を発売した)クオーツ製品を低価格化さらに種類を増やしていた時期にあたります。シチズン初のクオーツ腕時計が発売されるのはその1年後の1973年。「コスモトロン・スペシャル」がいかに電磁テンプ式製品史上、最高速振動の高級メカであっても、既に月差(1ヶ月の精度誤差)+-5秒を達成していたセイコーのクオーツ(諏訪38系・亀戸39系)には精度面では全くかないませんでした。国内ライバルメーカーの超高精度製品の展開を横目に「コスモトロン・スペシャル」の発売を行わなければならなかったシチズン開発陣の思いはいかばかりであったのか。

 それでも大卒初任給49900円(1972年)の時代、セイコーのクオーツは最も安いものでも7万円以上もしました。ゼンマイ式の高級品と同程度の23000円(Cal.7803)に価格設定された「コスモトロン・スペシャル」を受け入れる市場はまだまだ大きく、「ゼンマイ式時計との差別化(止まらない・高精度)」という形で、営業的に成功をおさめます。「コスモトロン・スペシャル」は1972年の発売から3年近くも製造が続けられました。実際「コスモトロン・スペシャル」はシリーズ中の高級ラインでありながら、ヴィンテージ・マーケットでもよく見かける製品です。

 1966年、セイコーより2年先駆けて電磁テンプ製品を国内市場に投入し、圧倒的な販売実績を残したシチズン電磁テンプ・シリーズ。その総括がこの「コスモトロン・スペシャル」であり、電磁テンプにかけた同社の気概が随所に見て取れる製品内容となっています。

 機械式、クオーツ式など、現行製品への搭載が続く“腕時計メカ”の改良・開発には終わりがないようです。しかし「バッテリーを動力源にテンプで時を刻む」電磁テンプ式の進化はこれ以上に望むべくもありません。腕時計メカの1カテゴリーの“到達点”としてこの「コスモトロン・スペシャル」を捉えてみると、とても意義深い腕時計製品、腕時計メカであることが理解できます。 2005.9 update

    

  

  

  

  

  

  

  

  

  

裏蓋の刻印から1974年3月の製造であることが分かります(読み方