Vacheron&Constantin Cal.K1072/1

  

   

  

 Vacheron&Constantin(バセロン・コンスタンチン/バシュロン・コンスタンタン)の金無垢ケース。1960年頃の製造ですが素晴らしい状態を保っています。まずはVacheron&Constantinの歴史から調べてみました。

 同社の創業は1755年。1735年のブランパン、1737年のファーブル・ルーバに次いで古いと言われますが、大きく体制を変えず、その歴史を途切らすことなく時計作りを続けてきたという意味では最古のメーカーかもしれません。ただし時計メーカーというには忍びないほど作り出す時計は芸術的。一般の時計メーカーとは一線を画しており、時計づくりという“業種”は一緒であっても“業態”は明らかに異なります。職人のレベル、その姿勢、製作にかける時間などは高次元で、もちろん製品のマーケットも高階層のそれでした。
 創業者はジャン・マルク・バセロン(バシュロン)/Jean-Marc Vacheron。創業地はスイス・ジュネーブです。18世紀、芸術や哲学などの知識を備えた時計職人集団を「カビノチェ」と呼び、Vacheron&Constantinの時計は“カビノチェが製造する時計”でした。当時、フランスの貴族階級に多くの顧客を持っていた同社は1789年のフランス革命で主要顧客を失ってしまいます。その後、3代目のジャック・バルセレミイ・バセロン(バシュロン)が1819年にフランソワ・コンスタンチン(コンスタンタン)/Francois Constantinを共同経営者として迎え入れました。彼は非常に裕福な穀物商の子息で、時計ディーラーとしての商才もあったようです。それからしばらくして1839年に正式に社名が「Vacheron&Constantin」になりました。1880年にはマルタ十字軍のシンボルマークに由来するMaltese cross(参考1 参考2Abraham's世界紀行より)をトレードマークとして商標登録します。

 腕時計の製造をスタートしたのは1910年。当然ハイクラス向けのものでした。1938年にはLeCoultre/ルクルトと契約し腕時計機械のほとんどはLeCoultre製のものとなります。ただしLeCoultreから提供される時計機械はVacheron&ConstantinとAudemars Piguet/オーデマ・ピゲの2社専用の高級機のみ。その機械のパフォーマンスはクロノメーター規格以上に厳しい「ジュネーブシール」規格を取得する徹底したものであり、時計機械でありながら高級素材を惜しみ無く使い、時間をかけて作り込まれたものばかりでした。

 1940年に経営不振からCharles Constantinは大半の株式をGeorges Kettererに売却、同社の経営は創業2家から離れます。ただし会社の主要形態は変わらず、むしろルクルトの機械を搭載した高級ウォッチの販売は好調を持続しました。1970年代のクオーツショックを経て1980年代のはじめサウジアラビアの石油王Yamaniが『Vacheron&Constantin』の商標だけを買取り、さらに1996年になって南アフリカの有力者でVenDome Groupのオーナーである、Johann Rupertが同商標を手に入れ今日に至ります。 2003.6 update

    

  

  

  

  

  

  

  

 現行の時計では『Vacheron Constantin』と“&”を外した表記がほとんどですが、ヴィンテージウォッチではかならず『Vacheron&Constantin』となっています。

 先にも紹介しましたが、社標のMaltese crossはマルタ十字軍のシンボルマークが由来。ちなみに「Patek Philippe」の剣と十字架を組み合わせたカラトラバマーク(こちらの「竜頭」参照)は12世紀のカラトラバ十字軍のシンボルマークに由来しています。

  

  

  

  

  

  

  

  

Cal.K1072/1 18.000振動 50時間リザーブ

 シースルーバックなどない時代、ましてや一般の人が時計機械を見る場面などない時代に、これほどの芸術的な機械を載せていたことに驚きます。

  

  

  

  

  

  

  

  

  

  

  

  

  

  

  

 ローター下のブリッジとテンプの下にジュネーブシール(ジュネーブ市章)が見られます。ジュネーブ市の時計任意検査局が定める精度・品質規定がジュネーブ・シール。精度規格であるクロノメーター(こちらで解説)のテストは15昼夜360時間行われるのですが、ジュネーブ・シールのテストは600時間をかけて行われるとのこと。また精度だけではなく、仕上げ、素材、サイズ、構造にまで決まりがあり、3大ブランド(「Patek Philippe」「Vacheron&Constantin」「Audemars Piguet」)と一部の超高級メーカーが取得するばかりです。

  

  

  

 左側のP字型の部分は「locking-click plate」と呼ばれる機構。  ローターに18金を使用。ローター外周の比重を重くしています。

 Vacheron&Constantin-Cal.K1072(1959年1年間だけ製造)のテンプをGyromax balanceにしたのがこのCal.K1072/1。1959年から数年後に1072に見られた若干のトラブル要因を解消し開発されました。LeCoultre製の機械です。

 Cal.K1072ならびにCal.K1072/1と同じ機械はAudemars Piguet/オーデマ・ピゲにも供給され、オーデマ・ピゲにおけるVacheron&Constantin-Cal.K1072/1はAudemars Piguet-Cal.K2072にあたります。

 Vacheron&ConstantinとAudemars Piguet専用に開発された機械で「LeCoultre」の自社完成品には使われていません。

  

  

  

 テンプに緩急針はなく、Gyromax balance/ジャイロマックス・と呼ばれるフリースプラング(freesprung)テンプを採用。外周にある丸いオモリのようなものを補正しテンプの往復運動を微調整します。写真では見えませんがヒゲはブレゲヒゲ。耐振装置はKif-Flector shock(キフショック)です。偶然ですがMaltese crossのようにも見えますね。左上の刻印はジュネーブシールです。

  

  

    

 ベアリングの代わりにルビーローラーを採用。これも手が込んでいます。

  

  

   

 裏蓋内側にはオーバーホールの履歴を確認。

  

  

  

  

  

「Jaeger LeCoultre」「LeCoultre」「Vacheron&Constantin」の関係

 1938年以降「Vacheron&Constantin」の腕時計機械のほとんどは「Jaeger LeCoultre」から供給されたものでした。これは「Audemars Piguet」も同じ状況で、結果「Vacheron&Constantin」と「Audemars Piguet」に搭載される時計機械の多くは共通しています。ただし「Jaeger LeCoultre」が積極的に機械供給をしたのはこの2社のみ。他にも「IWC」や「Favre Leuba」()などにも機械供給をしていますが、それなりの高級ブランドに絞られているようですし「Vacheron&Constantin」「Audemars Piguet」へ供給する機械とは一応、分けているようです。

 1833年に時計工房を開設したAntoine LeCoultre/アントワーヌ・ルクルトから「LeCoultre」社の歴史が始まります。彼が工作機械職人であったことから、同社はムーブメント供給メーカーからのスタートとなりました。実際、自社ブランド「Jaeger LeCoultre」を立ち上げ腕時計の完成品を出荷するようになったのは1929年。それ以降も軸足はムーブメント供給メーカー(エボーシュ)にありました。それは「Vacheron&Constantin」と「Audemars Piguet」に供給した高級機械のほとんどは、その2社専用の機械として自社の「Jaeger LeCoultre」製品に搭載しなかったことからも伺い知れます(一部例外あり)。

 手巻き、自動巻、アラームと多岐に渡る時計機械で間違い無く世界最高の技術を持っていた「LeCoultre」ですが、クロノグラフだけは手掛けていません。「Jaeger LeCoultre」銘のクロノグラフの多くは、当時コンプリートメーカー(自社で機械から一貫生産する完成品メーカー)であったUniversal/ユニバーサルの機械を搭載しています。不得意な機械であっても、エボーシュ専業ではなくコンプリートメーカーから供給を受けるあたりに“高級機エボーシュとしての”プライドを感じます(ただし70年前後の一時期にバルジュー製のクロノグラフ機械や、AS社製の自動巻機械などエボーシュ製機械を採用しています)。

 元々は「LeCoultre」が会社で「Jaeger LeCoultre」がブランドのような形でしたが、ヴィンテージウォッチの文字盤には「Jaeger LeCoultre」「LeCoultre」「Jaeger」と3種類の表記が混在しています。1970年代までは、マーケット(国別)や製品によってブランド銘を使い分けをしていたためと言われますが、明確な線引きはなかったようです。アメリカへの輸出品には「LeCoultre」銘が使われており、「Jaeger LeCoultre」をワンランク上のブランドとした向きもあります。

 1978年にドイツのタコメーター企業「VDO」が経営に関与するようになって以降は「Jaeger LeCoultre」という名称がより統一された企業名、ブランド名になりました。現在ではよりコンプリートメーカーの色彩を強めていますが、高級機エボーシュの立場も継続しています。1990年代に機械式時計が復権して以降も「Vacheron&Constantin」「Audemars Piguet」に継続的に機械提供を行い、「Patek Philippe」現行製品の一部にも同社の機械は搭載されています。

  

  

参考文献 

「Wristwatches」Gisbert L. Brunner/Christian Pfeiffer-Belli KONEMANN

「AUTOMATIC Wristwatches From Switzland」Heinz Hampel SCHIFFER

「スイス時計交流記」久下晴夫 グリーンアロー出版社

「世界の腕時計 No.16」 ワールドフォトプレス

   

  

  

  

  

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 アメリカの業者取引ガイド。膨大な数のヴィンテージウォッチを取り上げ、参考取引相場を紹介しています。小さな電話帳のような体裁。またロレックス、オメガ、IWCなど主要メーカーの歴代機械紹介、エボーシュマーク表、技術解説、主要メーカーのリファレンス表、ホールマーク一覧など使える資料も豊富。移り変わりの早い相場に合わせて毎年新版を出版。この内容で3000円弱の値段は非常にお買得。時計も全てイメージ表示されているので理解も進みます。イーベイなどで舶来時計にビッドする際にも参考になるでしょう。
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