オリエントが1964年から展開したAAA/スリーエース。モデル名のAAAとは「性能」「デザイン」「価格」の切り札(エース)を意味するとのこと。21石や25石など石数の異なるモデルを揃え、同ライン中でもそれぞれ差別化をはかっていました。ここで紹介する35石は最多石モデルで、AAAの中で唯一、TRIOSTAT/トリオスタットを採用しています。TRIOSTAT/トリオスタットは同社のグランプリ100やグランプリ64-ALMIGHTYなど高級品にのみ採用された同社オリジナルの微動緩急調整装置。 搭載機械はSEIKO製の76系をベースとしています。セイコーが開発したマジックレバーを使った自動巻機械。セイコー76系は第二精工舎亀戸工場製で、初期のセイコー5(ファイブ)などに搭載。セイコーにおいては比較的、廉価な製品に採用されました。現在、オリエントはセイコーエプソン(旧・諏訪精工舎)の関連会社ですが、以前はこの76系機械や52系機械など第二精工舎亀戸工場製(現・セイコーインスツルメンツ)の自動巻機械の提供を受けていました。※諏訪と亀戸の説明はこちら。 AAAがリリースされた60年代中頃から、オリエント製品にセイコーの機械を搭載するケースが増えてくるのですが、その多くはOEM製品とも呼ばれるようなセイコーの機械をそのまま使用したケースがほとんどです。その中にあってこのAAA-35石は特異な存在。前述のTRIOSTAT/トリオスタットの付加に加え、ローター部分にはグランプリ100やグランプリ64に見られたようなオリエント独自のルビー装飾まで見られます。自社で時計機械を設計、製造してきたオリエントが“ライバル企業”からOEM供給を受けるという“屈辱”に、独自の美意識や自社技術を加えることで静かに抗ったのかもしれません。AAA-35石はトンボ出版の時計本にも掲載されないモデルで、製造数が少ない時計だと推測されます。 2004.4 update |
|
|
|
オリエントのTRIOSTATについて「コレクションルーム十号室」の十号さんから貴重な情報を頂きました。上の写真は十号さん所有のミドーマルチフォート・グランラクス。緩急装置部分をご覧下さい。TRIOSTATと似た緩急装置が見られます。これはINCASTARという名称とのこと。TRIOSTATはこの微動緩急調整装置を参考にしているようです。MIDOは既に1940年代の機械にINCASTARを採用。ひげぜんまいを直接出し入れして長さを変えることで緩急調整する仕組みのように見えます。この調整装置についてはこちらでも検証しています。 |