FAVRE LEUBA ETA Cal.1256

  

  

  

  

 FAVRE LEUBA(歴史)の自動巻。FAVRE LEUBAは非常に歴史あるメーカー/ブランドでルクルトの機械を搭載するような高級腕時計(※ルクルト製機械を搭載する意味)も多数手掛けました。また自動巻を含め自社製機械の製造も行っています。しかしここで紹介する時計はエボーシュの汎用機械を搭載した比較的、廉価な製品。今回はこの“エボーシュの汎用機械”に注目したいと思います。

 1950〜60年代、巨大エボーシュとして多くの同業他社を吸収合併したETA社(歴史)。現在はスウォッチグループの中核企業となっています。このETA社が製造した自動巻の(実質)初号機であるCal.1256が今回紹介する時計に搭載されていました。

 当時、ETA社の親会社であったETERNA(歴史)は1940年代の終わりに部品点数が少なく、巻上げ効率も高い新しい「切替え伝え車方式」自動巻の開発に成功。ETA社はすぐに同方式の汎用エボーシュ機械の製造をスタートします。同社の自動巻機械はエボーシュ機械に頼る多くのスイス製メーカーに高く評価され広く採用されました。

 1940年代の終わり、スイスの時計メーカーやエボーシュ(時計機械製造専業メーカー/解説)は自動巻の開発競争にしのぎを削り、様々な方式の自動巻機械が誕生します(参考)。またバンパー式と呼ばれる半回転ローターから全回転ローターに移行する時期でもあり、いずれのメーカーもスタンダードと成り得る全回転ローター・自動巻機械の開発を急いでいました。課題は“百社百様”でしたが、多くのメーカーが特に意識したことは「巻上効率」「耐久性」「小型化」。その開発競争の中で誕生したETERNAの自動巻機械はそのいずれにおいても大きな優位性を有します。この機械をベースに設計されたETA製汎用自動巻機械(Cal.1256系)は価格競争力も高く、瞬く間に市場を席巻しました。これをきっかけにETA社は莫大な資金を得て、次々に新しい自動巻機械をリリース。細かな派生機械も加えると、こん日まで100種類以上の自動巻キャリバーを製造してきました。

 ここで紹介するETA Cal.1256は1950年頃より製造が開始された自動巻機械です。(実質)同社初の自動巻機械ながら、開発後すぐに大量生産され多くの時計メーカーに供給されました。前述の通り、ETA社はETERNAからの技術供与を受けながら、多くの改良機械の開発・製造を続け企業として力を付けていきます。終には親会社のETERNAから独立、スイス時計産業の中核企業となりました。

 無数に存在したスイス・エボーシュの合従連衡の中、そのほとんどを合併・吸収したETA社は、現在も汎用機械の製造を続行中。スイス製汎用ムーブメントの製造においてはその寡占的な状況から、同社無くして現在のスイス時計産業は成り立たないと言われるほどです。

 ETAそしてETA社製時計機械の躍進には複合的な要因があったとは思いますが、このCal.1256をひとつの起点とするのもひとつの見方です。以下では裏蓋を開け、機械画像を紹介していますのでご覧下さい。 2005.8 update

    

  

    

  

  

  

  

  

  

  

  

  

  

  

  

テン輪の下にETA社マークとキャリバーナンバー1256が刻印されています

  

  

  

  

 ETERNAの最初期自動巻(Cal.1247/1950年)との比較。ETERNAの偉大な発明「ローターへのボールベアリング使用」はETA Cal.1256には採用されていません。ETERNAが特許を取得した「ローターへのボールベアリング使用」というアイデアはすぐにはETA製エボーシュ機械に提供されなかったようです。ちなみにETA製機械にボールベアリング機構が見られるようになるのは1950年代の終わり頃から。

 マニュファクチュールとして高級製品メーカーを志向していた(と思われる)ETERNAとしては自社製機械と子会社ETA社の機械には少なからず差別化を図っていたものと思われます。ETERNA Cal.1247とETA Cal.1256はほとんど同時期にリリースされた機械ですが以下の違いが見られます。

・ETERNA Cal.1247のローターにはボールベアリングを採用

・ETERNA Cal.1247の耐振装置は自社製「ETERNA-U shock」を使用。ETA Cal.1256は外部汎用部品の「INCABLOC」。

・ローターの形状、仕上げ、地盤の磨きなどETERNA Cal.1247は徹底したフィニッシュが施されている。