IWCの自動巻です。同社独自の自動巻機構であるペラトン式のCal.852を搭載。同系初号機のCal.85/Cal.81は1950年から2年ほどのあいだ僅かの個数が製造されましたが、2年後の1952年には後継機であるこのCal.852(カレンダー付は8521)にスイッチしています。1958年にCal.853(カレンダー付は8531)に世代交代するまでの期間、6万個強のCal.852系搭載機が世に送りだされました。Cal.852は初めて大量生産され、その優秀さを実証したペラトン式機械と言えるかもしれません。 非常に重量のあるローターを採用しているために、僅かな角度でもローターが回転し、効率良くゼンマイを巻き上げていきます。ペラトン式の機械は故障が少なく信頼性が高いと言われ、最終型のCal.854(カレンダー付は8541/8541B)までその基本設計を変えていません。今回紹介するCal.852の機械を観察すると、設計の確かさは素人目にも伝わってきます。個々の部品は厚さがあり、特に耐久性を重視していたのかもしれません。結果として得られた機械美も加わり、ペラトン式機械を搭載した時計は多くの時計ファンを魅了するようです。 ケースは金無垢のスナップバック。文字盤は経年の劣化も見られますが、ヴィンテージウォッチとしてはなかなかの雰囲気です。時針・分針は独特な形状でいかにもクラシック。秒針もセンターを起点に一方向にのみ伸びる変わった形状で、特に後から加工したものではないようです。スモセコのように妙なスピード感を持って文字盤上を周回します。 2004.6 update |
文字盤には経年によるスポットが出ています。インデックスも含め“味”があるので、リフレッシュするかは悩むところです。 |
オーバーホール履歴が見られます。大事に使われてきたのでしょう。1449011はケースの固体番号(シリアルナンバー)。機械の固体番号と合わせて製造年などを推測することができます。 |
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機械にある刻印を見ていきます。左上の写真は社名と石数「21」の刻印。右下の写真ではキャリバーナンバー(機械番号)とパテントの刻印が見られます。APPLの意味は不明。右上の写真にある1398562は機械の固体番号。ケースの固体番号1449011と合わせて調べると製造年は1956年頃のようです。 追記 掲示板にお越し頂いている、おりえん党さんから貴重な情報を頂きました(以下)。 「推論ですがAPPLの部分は PATENT APPLICATIONの略ではないでしょうか? 特許出願という意味。ペラトン式巻上げについてのことかもしれません。PATENT APPLICATION NAMBER:XXXXXXX-XX は私の仕事でも使用します」(おりえん党 氏) |
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ラグ部分はロウ付けされているようです。ケース本体、ラグそれぞれにホールマークを入れるあたりは真面目な作業。ケース本体側のホールマークはスナップバックを外すと見られる位置に刻印。 |
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8541と比較してみましょう。まずローターの形状が異なります。8541はより外側の比重を高めるような造形。8541になり、かなりの薄型化がはかられていますので、ローターが軽量化した分、特に意識して設計したのかもしれません。またチラネジテンプがスムーステンプに。緩急装置も異なります。ローター以外の部品についても8541のほうが薄くなっているのが分かるでしょうか。実物で比べるとかなりの違いです。またムーブメント径がCal.852の29ミリに対して、8541は28ミリと小型化。これはローター外周のウェイト部分の幅の差です。 |
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スワンネックのような緩急装置はCal.852で初採用。Cal.853にも同じものが搭載されています。8541で偏芯ネジによる調整装置となりました。8541のテンワ・アーム上にはネジのようなものが乗っています。これによりジャイロマックスやステラスクリューのような調整をも可能としています(例1/2/3/4)。このネジはCal.853から付加され、Cal.852とCal.853との違いになっています。 |