CITIZEN CHRONOGRAPH CHALLENGE TIMER Cal.8110A

  

  

  

  

  

  

  

 シチズンの自動巻クロノグラフ「チャレンジタイマー」。シチズンが開発した自動巻クロノグラフはこの「チャレンジタイマー」シリーズのみで、初号機の発売は1972年の11月となっています。セイコーが1969年12月に世界で初めてクオーツ腕時計を発表したことから、70年代中後期以降はクオーツ技術を使った多機能ウォッチの開発競争が始まり、国産の自動巻クロノグラフはそれほど発展しませんでした。

 シチズンは1967年に手巻きクロノグラフ「レコードマスター(57系)」を発売しています。それから5年後にこの自動巻クロノグラフを発売しました。

 クロノグラフの自動巻機械の開発は非常に困難で、世界の時計メーカーがその開発を競いました。1969年にはホイヤー、ビューレンなどが主導して開発した「クロノマチック」、ゼニス・モバード連合の「エルプリメロ」、セイコーの「61系クロノグラフ」が矢継ぎ早に発表されます。

 一方で腕時計史における自動巻クロノグラフの歴史は浅く、前述のようにクオーツ腕時計の開発成功、同クオーツショック前夜の時期と重なったことから、短い期間で各メーカーとも開発をやめてしまい、十分には成熟しなかった時計分野だと言えるかもしれません。この状況から1970年代までに自動巻クロノグラフを自社開発した時計メーカーは世界的に見てもわずかしかなく、単独でそれに成功したセイコーとシチズンは70年代の機械式時計最晩期において、日本メーカーの実力を世界に誇示した格好となっています。

 シチズンは1972年リリースという“ギリギリのタイミング”で自動巻クロノグラフを開発しましたが、セイコーの「諏訪61系クロノグラフ(1969年〜)」「亀戸70系クロノグラフ(1970年〜)」よりも後年に送りだされた分、機械の完成度は高かったようです。

 セイコーの上記系統クロノグラフが、同社61系、70系自動巻機械とクロノグラフ機構を重ねたような構造であるのに対し、シチズン81系クロノグラフ機械は二番車の位置をずらしクロノグラフ機構と輪列の重なりを回避するなど、ユニット化された同機構が配置よくおさまっています。時間をかけて設計されたクロノグラフ専用機械は薄型化も達成。また特筆すべきはシチズン独自の技術でクロノグラフにフライバック機能を持たせていることです。フライバック機能とはクロノグラフ起動中に、ストップボタンを押さず直接リセットボタンを押すと、クロノグラフ針と積算計が瞬時にリセット→リスタートする機能。これは同社が手巻きクロノグラフ「レコードマスター(57系)」で採用した「堅バネ式クラッチ」(シチズン特許技術)のなせる技で、非常に安定した動作を行います(亀戸70系もフライバック機能を持っていましたが輪列の動作に影響を与える欠点があると言われています)。

 「チャレンジタイマー」に搭載された機械は2種類。Cal.8100A(30分積算系付/1972年11月〜)とCal.8110A(30分積算計・12時間積算計付/1973年1月〜)で、いずれもクロノグラフ起動時に動く計測用の「秒針」は持ちますが、時刻表示の「(永久)秒針」はついていません。機械はこの2種類だけでしたが「チャレンジタイマー」はバラエティー豊かな製品展開がなされ、海外にも多くの完成品が輸出されたようです。

 今回紹介する時計は通称「ツノ」と呼ばれるモデルで、11時と1時位置にそれぞれスタート・ストップボタン、リセットボタンを配置しています。エッジの効いた縦長八角形のケースは独特で、黒文字盤ともあいまって精悍な顔つき。「ツノ」のデザインを持ったクロノグラフは国内外の複数メーカーが製品化しましたが、その中でもシチズンは秀逸なデザインの「ツノ」モデルを多数リリースしました。 2004.7 update

 参考/国産腕時計4「シチズン・ホーマー」岡田和夫著、国産腕時計6「シチズン自動巻」 トンボ出版

    

  

  

  

 曜日は英語とスペイン語から選択。この時計は南米ペルーのリマに眠っていました(ペルーの公用語はスペイン語)。

  

  

  

  

  

  

  

  

  

  

Cal.8110A 28800振動 8振動/秒

クロノグラフユニットと自動巻整流ユニットが配置よく並んでいます。

  

  

  

  

  

  

  

部品に隠れて見えませんがピラーホイールを使ったクロノグラフです。