シチズンの「スーパーデラックス」です。発売当時「日本一薄型」をうたい大ヒット(1958年3月の発売から1960年7月までに100万個を販売)したシチズン「デラックス」の上位モデル。「デラックス」はシチズン間接中三針系統※の原点であり、23石の多石機械もラインナップされるなど“高級”を意識した製品であることは間違いありません。デラックス発売は1958年3月、同年の12月にデラックスの上位モデル「スーパーデラックス」が発売されました。 同時期にセイコー(諏訪精工舎製造)が発売した国産時計初の本格高級腕時計である「ロードマーベル」(1958年5月〜/「マーベル」の上位モデル)を意識したのは明らかでしょう。精度は当然のこと、外装・機械仕上げともに“スーパー”の名に恥じない高級な仕様となっています。「スーパーデラックス」の初号機は23石の3姿勢調整品。その後、23石5姿勢調整品、25石5姿勢調整品へと進化していったようです。 1959年9月にスイスクロノメーター検定機関において23石モデルがクロノメーター検定を受ける機会があり、このときには優秀級のクロノメーターに相当する精度があると評価されました。 ここで紹介するのは後年の製品で防水ケース「パラウォーター」仕様。薄型化を目指した「デラックス」系製品とは一線を画し、防水時計らしいマッシブなケースと極厚の風防を備えています。一方で当時のシチズン最高級品らしく質感の高い植字文字盤を採用。未使用品でしたので新品時の雰囲気が十分に残っています。 最大の見どころは搭載された金キカイ。大きく分割したブリッジと精度を求めて大型化されたテン輪は迫力満点。非常に美しい時計機械となっています。
※間接中三針 中三針(センターセコンド)とは文字盤の中央から三針(時針、分針、秒針)が出ている時計のこと。秒針が6時位置にあるスモールセコンドに対しての言葉。テンプへゼンマイの駆動力を伝える歯車の組み合わせである「主輪列」は、香箱車(ゼンマイ)→二番車→三番車→四番車→ガンギ車→アンクル→テンプ という順番で構成。秒針は四番車に、分針は二番車に、時針は日の裏車を介して二番車とつながる筒車に付属しています。秒針と分針を主輪列で直接動かすものを直接中三針と呼び、これは主輪列をそのまま中三針とするため構造がシンプル。一方、二番車と四番車が重なるので機械の厚みが増してしまいます。これに対して間接中三針では、秒針や分針を四番車、二番車に直接つけずに、秒カナや分カナ(中心車)(カナの解説)により間接的に動かすので二番車と四番車を重ねる必要がありません。結果、設計の自由度が増し、機械の薄型化も可能となります。一方で車が増える分、複雑な構造となるために余分なトルクが発生したり、時刻合わせの際に分針、秒針のふらつきが発生しやすくなる欠点も。 ちなみに時計機械がスモールセコンドからセンターセコンドに移行する中で、スモールセコンド機械を改造したような「出車」機械が数多く誕生しましたが、こちらはセンターセコンド化を目的とした単純な設計になっており“間接構造”がよく理解できます(検証)。 「デラックス」にはじまるシチズン間接中三針の設計はその後の同社製品のベースとなり、ついには国産時計史上の傑作「クロノメーター31石」(1962年発売)にまで進化していきます。 2004.6 update 参考資料 国産腕時計2/シチズン・デラックス 岡田和夫氏著 トンボ出版 |
三ツ星マークは高級品の証し。このマークのついたものを“スーパー製品”と呼びました。「スーパーデラックス」は三ツ星マークのついた初めての製品。1963年12月以降の“スーパー製品”にはメーカー1年間保証が付けられるようになります(例)。 |