CITIZEN CHRONOMETER 31JEWELS

   

  

  

  

  

 シチズン・クロノメーター31石。外装・機械とも最も美しい国産腕時計のひとつだと言われています。1962年に発売され1966年まで製造が続けられました。当時のセイコー最高級品「グランドセイコー」よりも高い価格設定だったことなどから数が売れた時計ではなかったようです。1962年当時、平均大卒初任給は17815円でしたがシチズン・クロノメーター31石(SSケ−ス)は25000円もの高価格品でした。しかしシチズン・クロノメーター31石は「シチズンの技術を内外に宣伝する」ことを目的に開発されたと言われ、同社にとっては採算を度外視してでも製造・発売する必要のあった腕時計のようです。実際、組み立ては通常の工場ラインから外れ、一つの固体に対し一人の職人が全ての行程を手掛け製造されたとの記録も残っています。一人の職人が一日に手掛けた本数はわずかに一本でした。とても大量生産を行うメーカーの作業とは思えません。

 「クロノメーター31石」と名付けられた時計の文字盤には筆記体で「Citizen Chronometer」と記されています。しかしこの時計は同規格(解説)を公式に取得しているわけではありません。国産メーカーが同規格を管理団体より公式取得するようになったのは、1968年に「日本クロノメーター検定協会」が設立されて以降のこと(84年には解散)。戦前より複数の国産メーカーは高精度をPRするため、スイス製腕時計の文字盤に見られた「Chronometer」表記を参考にし、管理団体の許可なく同表記を使用してきた歴史があります()。戦後になるとさすがにメーカー内での精度検査は徹底され「Chronometer」表記を与える製品は、同規格に照らして各社内で精度調整が行われるようになります。しかし依然、管理団体の許可を得るものではありませんでした。初期グランドセイコーのクロノメーター・モデルやこのシチズン・クロノメーター31石などはその例。当時の国産メーカーは同規格の商標・権利意識が希薄であったものと想像しています。前述の「日本クロノメーター検定協会」が設立されてから、「Chronometer」表記を使用する際には公式検定品の証しとして「OFFICIALLY -CERTIFIED」(公式検定の意味)の表記も加えるようになりました(例1例2)。

 さて、外装から見ていきます。非常にシンプルなケースと文字盤ですが、国産最大の30mm(13型)機械を搭載するとあって非常に大型。大味なバー・インデックスは同社デラックスの文字盤意匠に通じています。4本の太いラグはまるで猛獣の足のように裏蓋側へ張り出し力強い印象。竜頭には同社「C」マークが見られました。裏蓋には後年幾つかの同社フラッグシップモデルにも見られる「鷲」のゴールドメダルが鎮座。シチズン製品に「鷲」が使われたのはこのクロノメーター31石が初めてです。グランドセイコーの「ライオン」メダルにも負けず劣らずの高級感を演出しています。

 搭載機械は一見、同社デラックス系が改良された機械のようにも見えますが、前述のように大型の30mm機械であることから部品は全て専用設計であり、ゼンマイからテンプまでの位置も左右逆回りとなっています。最も目を引くのは精度向上のため極限まで大型化されたテンプ。13.5ミリのサイズは世界的にも最大級で、ゼニス・135クロノメーターと双璧です。セイコー亀戸系機械にも見られる(検証)テンプの両持ちは、大型テンプをささえるにあたっての“必然”に思えるほど。ゼンマイも強力で保持時間は53時間となっています。大きく分割しているブリッジは国産の機械らしく「直線」を基調としていますが、むしろテンプや香箱(ゼンマイ)、大型ルビー石の「円」の美しさを際立たせています。仕上げも丁寧で以下に超マクロレンズで観察していますが、面取りは当然のこと、磨きも細かく施されていました。 2006.4 update

参考 岡田和夫著「国産腕時計2/シチズン・デラックス」トンボ出版

    

  

  

  

裏蓋には新品ケースの保護シールが残ります