ZENITH Cal.133.8

  

  

  

  

 ZENITH/ゼニスのバンパー式(半回転式・)自動巻です。ネット・オークションを通じてトルコの方に譲って頂きました。

 バンパー式とはゼンマイを巻き上げるためにハンマーのような部品が、機械外周に沿って半回転、往復を繰り返す「巻上げ方式」の総称。全回転ローターが誕生するまでは主流の自動巻方式でした。この時計は1952年に開発された同社Cal.133.8を搭載。多くのバンパー式機械の中でも特に美しい機械として有名です。6振動/秒、石数20、大型バレルなど、性能面でも当時の自動巻機械の中では明らかなハイ・スペック。

 ケースは18金無垢のオリジナル。スナップバック式のクラシックな仕様です。大型のCal.133.8(径13lignes・26.5mm)を搭載しているため必然的に迫力のサイズとなったのでしょう。文字盤はいたってシンプル。この時代のZENITHマーク「星」が文字盤上で小さく輝いています。

 大事に使われてきたのでしょう。防水性のほとんどないスナップバックでありながら、機械は非常に綺麗な状態でした。ケースを振るとバンパー式特有の「コン、コン、コン、、、」という音を立てゼンマイを巻き上げていきます。

 この時計の入手を機会にゼニスの歴史についても調べてみました。

  

ゼニスの歴史

 1865年、ひとりの時計職人がスイス、ジュラ渓谷のLe Locle/ル・ロックルで時計工房をスタートさせました。彼の名前はGeorges Favre-Jacot。彼こそ「ZENITH」の創設者であり、ここに同社の起源があります。彼が当初目指したのは、高精度の懐中時計をローコストで大量に製造することでした。時計工房は瞬く間に巨大メーカーとなり、創業10年後にはル・ロックルの労働人口の3割以上を雇い入れるまでに成長します。1896年、Favre-Jacotは“Seiss National Exhibition”において「スイスの偉大な財界人」として表彰され、名実ともにスイスを代表する時計メーカーになりました。

 1903年、“Neuchatel observatory timing contest”(後のクロノメーター・コンクール)において同社の時計は、参加するスイスメーカーの中で最も高い精度を記録、第一位の成績を収めます。Favre-Jacotの時代に1500以上のコンクール・メダルを獲得した同社は精度、品質面においても大きな名声を得るに至りました。1911年、Favre-Jacotが引退すると後継者は「ZENITH」のブランドネームを決定。1917年、これを見届けた創業者、Favre-Jacotは他界します。

 この時代「ZENITH」の懐中時計は世界を席巻していました。日本におていも1927年/昭和2年に国鉄が公式時計として「ZENITH」製懐中時計の採用を決定しています。また軍用時計も数多く手掛け、第一次世界大戦、第二次世界大戦ではアメリカ、イギリス、ドイツなどに軍用時計を納めました。

 1920年代、同社はクロノグラフ腕時計の製品開発に取り掛かります。当初はクロノグラフ製造の名門「Excelsior Park」社(参考)からムーブメントの供給を受けていました。後年1960年代になって「ZENITH」はクロノグラフ機械製造を行っていた「Martel Watch Co.」を買収。「Martel Watch Co.」は「Universal」(歴史)のクロノグラフ機械を製造していた会社です。60〜70年代の「ZENITH」製・手巻きクロノグラフの機械が「Universal」製に酷似しているのはそのため。例えばMartel Watch Cal.749と呼ばれるクロノグラフ機械は、「Universal」のCal.285系であり、「ZENITH」のCal.146系となります。

 1950年代、世界的に腕時計が普及しはじめると、同社も積極的な製品展開を行います。1950年頃にはここで紹介する自社製自動巻Cal.133.系を搭載した製品を投入。2年後の1954年には早くも両方向巻上げの全回転式自動巻(Cal.2522P)を世に送り出しています。また、高精度化への挑戦にも積極的でした。1954年、クロノメーター・コンクールの腕時計部門において参加メーカー中、最も優秀な記録を打ち立てます。この記録を作ったのが時計機械史でも名品にあげられる同社Cal.135。生産数は1万1千個と言われ、そのほとんどが公式のクロノメーター検定品となっています。非常に美しい手巻き機械は愛好家垂涎のコレクト・アイテムとなっています。

 1969年、現在はエルプリメロとして知られる自動巻クロノグラフ「3019PHC」を発表。この機械は世界初の自動巻クロノグラフを目指し「MOVADO」と共同開発したものでした。しかし同年、わずか半年早く「Heuer」「Buren」「Breitling」などが共同で開発にあたった自動巻クロノグラフ「CHRONOMATIC」が完成し“世界初”の座を逃してしまいます。しかし、センターローターの自動巻クロノグラフとしては実質、世界初の製品であり完成度は非常に高いものでした。その証拠に「ROLEX」の高級クロノグラフである「DAYTONA」には、2000年に自社製クロノグラフ機械(ROLEX Cal.4130)が完成するまで、この「3019PHC/エルプリメロ」をベ−スとした機械(ROLEX Cal.4130)が搭載されていました。また、現行「ZENITH」製品においてもいまだ大きな設計変更をされずに「エルプリメロ」が搭載されています。

 しかし皮肉にも「3019PHC/エルプリメロ」開発後、「ZENITH」は企業としての体力を急激に落としてしまいます。同様の境遇にあった時計メーカー同士、合併を行い「Mondia-Zenith-Movado」という会社が誕生。「ZENITH」はこの会社の一部門となってしまいます。さらに廉価なクォーツ製品が世を席巻した、いわゆる“クォーツショック”の煽りも受け、1971年にこの会社はアメリカ資本に買収されてしまいました。同社は「American Zenith Radio Corporation」を名乗り7年ほど時計製造・販売を行いますが、1978年にスイスの金融グループ「Dixi」がこの資本の大部分を掌握。「ZENITH」は再びスイス資本メーカーとなります。1984年「Dixi」は「MOVADO」部門を「North American Watch Co.」に売却。

 その後、90年代に入り、世界的な機械式時計ブームが到来すると「ZENITH」の技術・ブランドは再評価され、「Dixi」資本の下で多くの機械式時計製品を送り出しました()。この機械式時計ブームはさらに過熱し、多くのスイス製老舗ブランドは買収による合従連衡に巻き込まれてしまいます(一部事例)。1999年にルイ・ヴィトンで有名なファッション・ブランド資本「LVMH/ルイ・ヴィトン・モエ・ヘネシー」が「ZENITH」を買収、現在に至っています。なお偶然にも“世界初の自動巻クロノグラフ”を競った(当時、Heuer)「TAG・HEUER」も1999年に「LVMH」傘下に収まりました。 2005.5 update

    

  

   

   

   

  

   

   

   

   

   

   

ZENITH Cal.133.8 21600振動 6振動 40時間リザーブ 1952年〜

※1948年開発のCal.133の5振動から、6振動に高振動化されています。

 

   

  

  

ムーブメントとケースのあいだにはメタルリングがはめられています。柔らかい金無垢ケースの強度を上げる工夫。

  

  

  

  

巻上げツメも耐久性がありそうです

  

  

  

香箱(ゼンマイ)も大型。メタルリング側にはみだすほどです。

  

  

  

バンパー側にバネがついているのは、この方式でも珍しい。地盤の133.8はCal.ナンバー。